夜空のおまじない
written by fermata
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「夜空に星が瞬くように、溶けたこころは離れない・・・この本にもないなあ」
山のように積んだ本の上に、また1冊のせながら、わたしはつぶやいた。

 この「夜空のおまじない」を、わたしはずいぶん小さな頃から知っている。
『大好きな人とずっと一緒にいられますように』っていう、
とても素敵なおまじない。お父さんか、お母さんが教えてくれたんだって、
ずっと思ってたけど、ある時2人に聞いてみたら、「知らない」だって。
びっくりして茜にも聞いてみたけど、「えー、何それ。初めて聞いたよ。
でも、なんかきれいだね」なんて言われちゃった。
それじゃ、わたしはどこで知ったんだろう?

 家族の誰も知らないということは、家にない本で読んだにちがいないと
見当をつけて、図書館の本を探し始めて、もう1年以上になる。
だけど、まだ見つからない。

「こんなにはっきりおぼえてるのになあ。なんで見つかんないんだろう」
どこに載ってるか、誰が書いた言葉かなんて、気にすることはないのかもしれない。
でも、絵本が大好きで、自分でも書く私は知っている。
どんな絵や言葉にも作者がいて、その作品には作者の祈りや願いがこめられていることを。
だから、わたしは、それが知りたい。そして、あの人に・・・鳴海君に、伝えたい。

 わたしの思いを知ってるのは、入学当時からの親友の水月だけ。
今、水月は鳴海君と同じクラスで、いろんな鳴海君情報を持ってきてくれる。
でも今日のはとびっきりだったなあ。

「ねえ、遙!今度の月曜の夜、ぜーーったい、あけといてよ!!」
 放課後、わたしのクラスに駆け込んできた水月が、
有無を言わせぬ勢いで言った。
「えっ、何か、あったかな?」
「欅町の花火大会、知ってるでしょ。それに行くのよ」
「えーっ、花火大会って、水月、わたしが花火嫌いなの、知ってるくせに〜」
 
 わたしは、あの打ち上げ花火が、どうしても好きになれない。
ドーンッて、すごい音がお腹に響くし、火花が降ってきそうだし。
ヘビ花火のケナゲさが好きなんだけど、花火大会にはきっとないよね。
 
「知ってるわよ。それでも行くの。孝之と、慎二君も来るんだから」

 今、水月、何て言ったの? 孝之って、鳴海君のことだよね?
鳴海君が来るの? どうしよう、ドキドキしちゃう。
本屋さんで会ったこと、覚えてくれてるかな。
でも、わたしったら、恥かしくて、お礼も言わずに逃げちゃったし。
『変な子』なんて思われてたら、どうしよう〜

 アセアセするわたしを、呆れ顔で眺めていた水月が、
得意のフレーズで決断を迫ってくる。

「んもう、じれったいわねえ〜。せっかくのチャンスなんだよ!?
 行くの、行かないの? さん、にい、い・・・」
「行く! 行きます!!」
「オッケ〜、そうこなっくちゃ。浴衣、ちゃんと用意しといてね。
 また電話する〜〜」
最後の方は、廊下から聞こえてきた・・・ふふっ、水月らしいな。

 花火は苦手だけど、がんばって行こう。水月がチャンスをくれたんだから。
鳴海君に、わたしのこと覚えてもらえるように。
そして、いつか、本当の意味をこめておまじないを伝えるために・・・

                           Fin
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 初めて、SSを書いてみました。
 ここへ投稿されてる、みなさんの素晴らしい作品には、
 まったく及びませんが・・・
 ご感想・ご指摘などいただけると、とても嬉しいです。
 
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