まだやりかけの現在 |
「・・・おじゃましまぁす。」 私にとっては大体1ヶ月ぶりのことだけど、3年振りの――孝之君の家。 せまい玄関に丁寧に靴を揃えて部屋に上がる。 「おぅ。」 「わぁ〜」 前に来たときとほとんど変わらず散らかっている孝之君の部屋。 「何?」 孝之君が不思議そうに問い掛けてきた。 「・・ん・・。あんまり変わってないなぁと思って」 「やっぱきたないか・・・スマン」 少し拗ねたような感じで孝之君がいう。 「いや!!そんなことないよぉ〜〜なんていうか・・・その、あんまり変わってなくてほっとしてるんだよぉ〜〜」 「ははっ。いったろ。そんなに世の中変わってないって」 悪戯っぽい、いつもの孝之君の笑顔。 「うん。はは」 つられて私も笑った。 ―――二人で笑う。 ただ、それだけで―――幸せだなって思う――― 「紅茶かコーヒーどっちがいい?」 孝之君が台所からティーパックとインスタントコーヒーのパックを 両手に抱えながらでてきた。 「あっ私やるよ。」 「いいって。遙はすわってな」 孝之君は水道の蛇口をひねりながらやかんに水を注いでいた。 前きたときのことを思い出して思わず顔がほころぶ。 「どしたん?なんかおかしいかな・・・」 変化に気づいたらしく、不思議そうに孝之くんが聞いてきた。 「前来たときも、3年前だけど・・・同じようなこといってたなぁと思って。そのとき孝之君はじめて私のこと遙って呼んでくれたんだよ」 「そういえば、そうだったよな。」 「うん・・・」 「んで、どっちがいい。紅茶?コーヒー?」 「あっ紅茶がいいな・・・やっぱりなんか私も手伝うよ。」 「わかった。じゃあそこに入っているコップ出してくれる?」 「うん。わかった」 棚の中にはいくつかコップと皿が並んでいた。 ―――そのなかにイルカの取っ手がついたマグカップがあった。 思わず手にとって見る。 「孝之君。このマグカップ――かわいいね」 「・・ん。そうだな」 ―――さっきまでニコニコしていた孝之君の顔が急に曇る。 「どうしたの・・・」 私は捕らえようのない不安を感じて、恐る恐る聞いた。 ―――孝之君は少しうつむきながらポツリと答えた。 「そのマグカップさ・・・はじめて水月と水族館にいったときに水月に買ってやったんだ。・・・そのときはじめて水月のこと速瀬じゃなくて水月と呼ぶようになったんだ・・・」 ――そんなことがあったんだ。・・・そうだよね――3年たっているだもん。 孝之君にもいろいろあったんだよね。・・・けれど頭ではわかっていても――― やっぱり・・・寂しい――― 私、嫌な子なのかな・・・水月のこと――ときどき羨ましいと思ったりする。 孝之君の過去。ううん。水月と孝之君の過去――― もっと知りたいと思っている―――。 孝之君、掘り返されたくないこと―――たくさんあるんだと思う。 私も努めて聞かない様に心がけている――― けれどやっぱり好きな人のこと――― ―――誰よりも知りたいと思う――― でも――孝之君を傷つけるようなことはしたくない。水月を嫌いになりたくない。 自分でも何を考えているのか――― よく―――わからないよ。 私、どうしたいんだろう? ・・・しばらくの沈黙の後―――孝之君は搾り出すようにいった。 「ごめん。遙・・・本当は捨てるべきなのかも知れない。・・・けれども俺はこう思ってるんだ。いつかまたこのコップを使って水月と・・・遙と・・・あと慎二のやつと俺と・・・いっしょになって紅茶とかコーヒーとか飲めたらいいなって・・・思ってんだ。」 そのまま孝之君は続けた。 「でも・・・それってやっぱり傲慢だよな。遙の気持ち――聞いてないもんな。遙がいやだっていうなら――捨てるよ。その覚悟がもてなかったばっかりにたくさんの人を・・・水月を―――傷つけることになっちまったんだから――」 私は涙が溢れそうになった――― 「あやまらないで・・・捨てる必要なんてないから―――ううん。捨てないでほしい―――私も・・・そう思うから・・・」 もう涙が止まらなかった――― 私ってばかな子だよね。孝之君・・・はずかしいよ・・・ 自分のことばかり考えて・・・ 孝之君は私にそっと手をまわして 抱きしめながら耳元で 「ありがとう――」 といった。 孝之君って不思議。私の戸惑いや不安―――簡単に吹き飛ばさせちゃうんだもの――― そして、やかんの火を消しながらこういった。 「お茶はやめにして・・・これから水族館にいこうか。 遙のやつを買いにさ」 いつもどおりの悪戯っぽい笑顔で孝之君はいう。 「うん――」 「あっと慎二のやつもな」 「はは・・。うん!」 二人なら、孝之君とならどんな場面も笑える気がする――― 私は目いっぱいの笑顔で答えた――― 後書き ありそうでなかったので書いて見ました。遙のこういう話。物語は 10月から11月くらいの時期です。感想よかったら書いてください。 お願いしますm(_ _)m |
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