真実という深い闇 |
「ちっと休止すっか」 「んん?ああ・・・」 酒を飲みながら対戦ゲーム。 いつも俺が誘うケースが多いんだけど、めずらしく孝之のほうから誘ってきた。 速瀬には悪いけど、ゲームってことになると孝之は俺とよく遊ぶ。 コントローラーをおいたとき、ちょうど時計は夜中の二時半をさしていた。 飲みかけのぬるいビールを口につける。 ふと風にあたりたくなり部屋の窓を開けて生暖かい夜風にあたる。 遠くから救急車のサイレンが聞こえる。 そういえば・・・孝之のやつ三年前はサイレンの音が聞こえるたびに 泣いていたっけな・・・声も出さないで。ただ涙を流してたっけ。 遠くの救急車のサイレンがドップラー効果で大きく聞こえる。 「孝之、速瀬とはうまくやってるか?」 孝之のほうに振り向きながら聞いた。 「んん。ああ。最近水月の仕事が忙しくてあえないけどうまくやってると思う」 「はは・・・そういえば俺にも最近電話でぼやいてたよ」 ・・・孝之の奴はまだしらない。 速瀬がなんで水泳をやめたのかを・・・ もう速瀬と孝之が付き合いはじめて2年近くたつ。 ・・・だけどまだいうことができずにいる・・・ 今このことを知ったら孝之はどうだろう? アイツのことだ。きっと自分を責めるだろう。 涼宮の人生を狂わせただけでなく速瀬まで狂わせたと・・・ そうなったらもう立ち直ることはできないかもしれない―― ・・・いやアイツは強ぇ。たぶん立ち直る。 涼宮のときだって・・・そうだった。 ――忘れられるわけがない――癒されるわけがない―― 自分の殻に閉じこもってしまうこともあった。 けれど、アイツはまた俺たちにいたずらっぽく優しく笑えるようになった。 速瀬の支えがあったにせよ、それはまぎれもなくアイツの強さだ。 時間がかかったのはそれだけ涼宮のことを想っていたんだろう・・ アイツはきっと速瀬のこともわかってやれると思う。本当のことを知った上で ならどうして言えないのか・・・それを速瀬が望んではいないからか?
また速瀬に胸ぐらをつかまれた日を思い出す。 俺はあの日孝之に本当のことを言いに行こうとした。でもいえなかった。 速瀬にとめられたから・・・いや・・・違う・・・ 本当は・・・それを孝之にいったら・・・ひょっとしたら・・・もう二度と俺が速瀬に口を聞いてもらえなくなるかもしれないと怖かったからだ―― あのときちゃんと孝之にいえていれば、速瀬は実業団に落ちたにせよ 大学に入って水泳を続けていたかもしれない。 そしてその件で多少のイザコザはあるかも知れないけど、別れるまでは行かなくて 今よりうまく楽しく孝之と速瀬は付き合えていたのかもしれない。 もちろんここまでうまくいくことなんてないかもしれないけど、なら自分が そうなるように孝之や速瀬に対して動いてやればいいだけの話であって 結局言い訳にしかならない。
ただそのとき自分が速瀬と口をきいてもらえなくなるのが怖かったという理由だけで――
自分が傷つきたくないという理由だけで――
俺はそれをいうことができなかった――
速瀬のことを大切に思うなら、孝之のことを大切に思うならたとえ誰もが傷ついたとしても言わなければいけない責任が俺にはあったのに・・・
俺はその責任から逃げた。速瀬が人生を狂わせた責任を孝之に押し付ける形で!! あのころの――ボロボロのアイツがそれに気づけるわけなんてないのに・・・ それをわかっていながら・・・そして今も・・・アイツに気づけないお前が 悪いんだとばかりに・・・責任を押し付けている。 自分かわいさだけで言えなかった俺にそんな立場はないのかもしれない。 けれど早くアイツには速瀬の傷に気づいてやってほしい。
あの二人には―― あの二人には幸せになってほしい―― 心からそう思う。
「なぁ孝之、俺たち親友だよな?」 「んっなんだよきもちわり−なー。酔ってるからって。 きまってんだろっそんなこと」 「はは、んだな。わりーわりー」 「ん」 「・・・あぁ俺そろそろ帰るわ」 「ん。わかった。じゃな」 そういって部屋を後にした。
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