風邪(孝之)
遙とデートの日に、俺は風邪をひいてしまった

そのことを、遙に伝えると心配して来たのだ

「孝之君、大丈夫?」

遙が覗き込んできた

「今のところはな…」

「はい、これ」

遙が体温計を差し出した

「有難う…」

体温計を脇に挟んだ

「何か食べれそう?」

遙は心配そうな顔で聞いてきた

「ああ、軽いものなら…」

「御粥を作ってあげるね」

「ああ、たのむ」

ピピピ……

体温計を取り出して見た

は〜、40度か〜

遙に体温計を渡した

「凄い熱だね!」

「ああ、そうだな…」

「薬は何処にあるの?」

薬か〜、無いかもな〜

「ね〜、何処にあるの?」

「確か〜、そこの棚の引出しだったと…思うけど…」

「ここね」

ガサガサ…、ゴソゴソ…

遙は言われたところを探していた

「あったよ〜!」

「それは、いつのだ?」

この前、見たときかなり前のだったからな〜

「97,7,2って書いてあるよ」

「なに〜!」

今は、2002年だよな〜

俺は、そんなに風邪ひいてなかったんだな〜

「ね〜、孝之君。これ飲む?」

「大丈夫なのか?」

「う〜ん、どうだろ〜?」

「やめといた方がいいかもな…」

「そうだね。私、新しいの買ってくるね!」

「ああ、悪いな」

「行って来るね!」

遙は財布を置いて出て行った

財布を忘れてるぞ〜

遙は大慌てで、財布を取りに帰ってきた

「お財布、忘れちゃった〜」

遙は照れくさそうな顔をしていた

「そうだ!御粥はいいのか?」

「えっ!あ〜!」

遙は慌てて行ったが、もう遅かった

御粥は、もう御粥と呼べる代物ではなかった

「ごめんね…」

遙はしょげてしまった

「いいよ、気にしなくても」

「うん…」

まだ、顔を上げなかった

「いいから、薬を買ってきてくれよな」

「キャッ!」

しょげている遙の頭を軽く撫でてやった

「うん!行ってくるね」

「今度は、財布を忘れるなよ」

「大丈夫だよ!」

遙はそう言いながら、財布を俺のほうに見せた

「中身は入ってるのか?」

「えっ!」

遙は財布を開けて見ていた

まずい!といった顔をして俺の方を見た

「う〜、どうしよ〜」

「俺に聞かれたもな…」

「はい」

手近に置いてあった、自分の財布を渡してやった

「えっ!」

「その財布、持って行くといいよ」

「でも〜」

「いいから」

「うん…行ってくるね」

遙は、俺の財布を持って部屋を出て行った

帰って来るまで寝るかな

ゆっくり目を閉じた

そのまま深い眠りに落ちた

ピンポーン

インターホンの音で目が覚めた

誰だ?

重い体を起して出てみた

ガチャ

そこには茜ちゃんが居た

「どうしたの…」

「お兄ちゃんが、風邪をひいたって聞いたから」

「えっ!誰から?」

「もちろん、お姉ちゃんからです!」

「そうか〜」

「あと〜、『これを持って行って』って言われました」

茜ちゃんは小さな袋を差し出した

中身を見てみると薬ビンが入っていた

「ところで、遙は?」

「家に帰って行きまたしけど〜」

「そうなんだ〜」

「はい!」

「それより、お兄ちゃん。早く寝たほうがいいですよ」

「ああ、そうだな」

茜ちゃんに支えられて、ベットに横になった

「ごめんね…」

「気にしないで下さい。これくらい当たり前ですよ」

「有難う…」

「ほら〜、寝てください」

「判ったよ」

また、眠った

しばらくして、ゆっくりと目を開けた

「お姉ちゃん。お兄ちゃんが起きたよ」

起きたのに茜ちゃんが気が付いて、遙に教えていた

「二人とも、おはよう」

「おはよう、孝之君」

「おはよう、お兄ちゃん」

「俺は、どれ位眠ってたのかな〜?」

「そうですね〜、3時間ってところです」

「そんなに、寝てたのか!」

「はい!」

「そうだ!孝之君、今ね御粥を作りなおしたから、食べる?」

「ああ」

「ちょっと、待ってて」

「これ、換えましょうね」

茜ちゃんは額の上のタオルを換えてくれた

「有難う…」

「いいんですよ!これくらい、当たり前ですから」

茜ちゃんは軽く下を向きながら言った

「御待たせ〜!」

遙がお粥を持って来た

「私は、帰るね」

「えっ!」

「それじゃ〜」

茜ちゃんは、急いで部屋を出て行った

遙と俺はそれを、ただポカーンと見ていた

我に返った遙が言った

「孝之君、はい!」

遙は蓮華でお粥をすくって、俺の口もとにもって来た

「自分で、できっるから〜」

「え〜、だって〜私の時は、孝之君もこうしてくれたよ」

ま〜、そうだが〜

「だからね。はい、あ〜ん」

「あ〜ん」

パク

「はふはふ……」

「ごめんね、熱かった?」

ゴックン

「ぜんぜん、そんな事は無いよ!」

「そうだったって顔してるよ〜」

「うぐぅ…」

「ふ〜ふ〜ふ〜……。はい、あ〜ん」

「あ〜ん」

パク

「今度は大丈夫?」

「熱い!」

「え〜!」

「な〜んてな」

「う〜、ひどいよ〜!」

遙は下を向いてしまった

「わり〜、わり〜」

顔の前で手をあわせて言った

「もう、あげないよ〜」

遙は、軽く上目遣いで言った

「それは、困る!」

「どうしようかな〜」

遙は焦らすように言った

「早く、くれよ〜」

「ふ〜ふ〜ふ〜……。はい、あ〜ん」

「あ〜ん」

パク

「どう?」

「うん、美味しいよ」

笑って言った

「本当に!」

「ああ」

「嬉しい!」

「うわ〜!」

遙は抱きついてきた

御粥は、何とか無事だった

「な〜遙、御粥が…」

「えっ!」

遙は慌てて離れて、御粥を動かした

「これで、大丈夫だね!」

「そうだな」

「ね〜、孝之君…」

「どうした?」

「御褒美の…キス…して欲しいな…」

照れて下を向きながら言った

静かに遙の顔に手を沿えて、顔をゆっくりあげさせ、キスをした

静かに離した

遙は顔を真赤にして下を向いた

俺も遙の顔を見ることは出来なかった

「な〜遙。御粥が、食べたいんだけど…」

照れくさそうに言った

遙は、はっ!とした顔をした

「ごめんね…」

遙はしょげてしまった

「そんなに気にすること無いって」

「うん…」

「はい…」

「悪いな…」

パク

少し冷めたお粥を食べた

「冷めても、美味しいな」

そのまま、遙にお粥を全て食べさて貰った

「本当に、美味しかったよ」

「これだと、早く治るな!」

「これも、遙が作ってくれた御粥のおかげだな!」

とにっこり笑いながら言った

「そうかな…」

遙は顔を紅くしていた

「そうだとも!遙の御粥に勝てる薬なんて無いぞ〜」

「嬉しい〜!」

遙はまた、抱きついてきた

今度は優しく抱きしめて、軽く頭を撫でてやった

遙は幸せそうな顔をしていた

「なんか、風邪もどっかにいった気がするな〜」

「遙のおかげだな」

「そうかな〜」

遙は更に、顔を紅くした

「これは、お礼だよ」

遙にキスをした。前より長く

どちらともなく離れた

「今日は、本当にありがとな」

「うん…」

遙は俺の顔をじっと見ていた

「そうだ!遙、家に帰ったんだよな〜」

「うん」

「何しに、帰ったんだ?」

「これを…取りに帰ったの」

遙は箱を取り出して俺に渡した

「開けても、いいか?」

遙は何も言わずに頷いた

箱を開けてみた

中身は、腕時計が入っていた

「遙、これ…」

「うん、時計だよ」

「これって高いんだろ〜!」

「うん…でもね、今日は特別な日だから…」

「……」

「そう、孝之君が好きだって言ってくれた日だよ」

「だからね。これを受けとって欲しかったの…」

遙は、ずっと俯いたまま話した

「有難うな…実はな、俺も遙に渡したい物があるんだ」

「えっ!」

遙は驚いていた

「これだよ…」

箱を取りに行って、遙に手渡した

「開けても、いい?」

静かに頷いた

遙は、箱を開けて驚いていた

「どうだ、気に入ってくれたか?」

「うん…!とっても嬉しいよ…!」

遙は涙を流しながら答えた

箱の中には遙の誕生石が付いた指輪と一緒に『これからも、ずっと一緒に居ような』

と書かれたメッセジーカードが入ってる

泣いている遙を、抱きしめて頭を撫でてやった…

ーENDー


後書き

孝之と遙が、馬鹿カップルになってる所もある気が(^^ゞ
終わりは、それなりに良かったと思いますけどね(^^ゞ
遙が渡すもので1時間ぐらい悩んでしまった(^^ゞ
ギャラリ〜へ