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遙〜卒業〜

 ふぅ・・・。
 この丘に登るのがこんなに疲れるなんて、思ってもいなかったなあ。
 孝之君に告白して、告白されたこの丘。4人の友情を確かめあった場所。今の私を支えてくれる人たちが集う大切な空間。誕生日っていう大事な記念日に、ここに来て街をゆっくり見ていたかったんだ。私の幸せの始まり、二人を結びつけてくれた丘で・・・。
 私は春の香りであふれている丘の空気を思いっきり吸い込んだ。なんて、あったかくて懐かしいにおい。すこし胸がきゅんと切なくなるけど、やさしく私を包み込んでくれるそよ風。この風が私に教えてくれる。私は今、ここにいるよ。元気だよ・・・。
 
 今日、ここに来たのにはもう一つ、理由があった。それは・・・卒業。ずっと眠っていた私にとって、とっくに高校を卒業しているなんて、感じられないの。頭では、もう3年も経ったんだ、って理解しているよ?孝之君や慎二君もあれだけ大人になってるし、この間茜の卒業式も終わったし・・・。私も頭では理解しているから、孝之君にもこの話はしていないんだけど、なんか、自分で区切りがつけたかったの。そうしないと前に進めない気がして・・・。学校への坂道を上って、もう春休みに入っている校舎を抜けて、この丘に・・・。これは私だけの、私にとっての卒業式。まだ私にとってはすごくきつい道のりだったけど、どうしても来てみたかったんだよ・・・。
 来てみて、よかった。この風、みどり、空、鳥たち。みんな、私を迎えてくれるような暖かい気持ちになれた。包み込んで、くれてる・・・。少し、寝ちゃおうかな。やっぱり少し疲れちゃったよぉ・・・。草の上でまあるくなりながら、まどろんでいく・・・。
 
 ふわっ。
「ん・・・」
 なんだろう・・・。柔らかい感触。気持ちいい・・・。
 すとん。となりに優しい気配。なんか、ほっとするよ・・・。
 
 さわさわっ・・・。春草が私の頬をくすぐる。・・・どれくらい寝てたんだろう?ほんと、気持ちよかったぁ。起きあがろうとして少し手を伸ばす。
「あ・・・孝之君?」」
 思わず声を出してしまった。ど、どうして孝之君がここにいるの?私、誰にもここに来ること、言ってないよ?お母さんにも茜にも言わずに来たのに・・・。
「うーん・・・・」
 孝之君が私の声に気づいて目を開いた。
「あ、やべえ。俺、寝ちまった。驚かしちゃったな、遙。」
 まだ少し眠そうに目をこすりながらちょっと困ったような照れたような顔で話しかけてきた。孝之君とは今夜、うちでの誕生日パーティーで会うことになっていた。
「ふふっ。少し、ね。でも孝之君、どうしてここが分かったの?」
「決まってるだろ。ラブテレパスィーだよ。遙のいるところはピピッと分かるんだ。」
「すごい、すごいよ、孝之君。まただまされちゃいそうだよ。今度はほんとに誰にも知らせてないのに・・・。」
「『また』だなんて人聞きが悪いな、遙。俺がいつ遙をだました?」
 孝之君、分かってて言ってる〜。もう。
「それより孝之君、まだ眠そうだよ?ひざまくら、してあげようか?」
 孝之君、ちょっと驚いたような、それでいてうれしそうな複雑な表情を浮かべてる。
「ほんとか?じゃ、お願いしようかな・・・。」
「ふふっ。はい、どうぞ。」
 ぽんぽん、と自分のひざをたたく。ちょっとがりがりだけど・・・といいかけてやめた。それってちょっと後ろ向きだから。孝之君にも心配かけちゃうしね。「そんなことない」って、言ってくれるのを分かっていて言うのはずるい、とも思うし。
「あの公園以来だね。」
「そうだな。・・・ぷぷっ。」
 どうしたの、急に?・・・・・・ああっ。あの日って、鳩にえさをあげようとして・・・。あーん、恥ずかしいよぉ。
「孝之君、ひどい〜。」
 顔をちょっと赤くしてぷくっとふくれてみせる。
「あははっ。あの日は楽しかったな、ほんと。」
 そうだけど〜。やっぱりちょっと恥ずかしいよぉ。
「はははっ。ごめんごめん。今度またあの公園にも行こうな。」
「うんっ。」
 うれしさで、また顔が少し赤らんだみたい。
 
「あ、そうだ。」
どれくらいひざまくらしていたかな?孝之君が思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
怪訝そうに私が聞くと、ほほえみながらこう返してきた。
「ちょっと、街の方向いてて。」
「?」
 プレゼントかな・・・。ちょっと不思議に思いながら言うとおりにする。プレゼントならあとのパーティの時でいいはずだけどな・・・。
「いいぞ。こっち向いて。」
 孝之君のその手には、何か賞状のようなものが広げられていた。え?それって・・・。
「孝之君?」
 孝之君はそれには答えずにその手に持ったものを読み上げ始めた。
「卒業証書、涼宮遙殿。あなたは・・・。」
 それ以上、聞こえなかった。私がどうしても実感できなかった、高校卒業。頭で理解できているだけにどうしても周りに言うことができなかった苦しみ。一人で区切りをつけようとしたことを、孝之君は気づいていたんだ・・・。
「うっ・・・・うっ・・・。」
 涙を止めることができなかった。このギャップだけはどうしても理解してもらえないだろうし、たとえ分かってくれたにしても不安にさせちゃうだけだと思ってた。
 でも、でも。
 孝之君は感じ取ってくれた。それを、言葉じゃなくて「卒業式」という形で表現してくれた。もう、目の前がくしゃくしゃになって、何も見えないよ・・・。
 気づいたら、孝之君から証書を受け取り、そのままその胸にだきついて、なきじゃくっていた。
「孝之君、孝之くーん・・・。」
 もうそれ以上、言葉もでなかった。何も言わず、孝之君は私を抱きとめてくれてる。やさしく、けれども強く・・・。なんて、大きくてあったかいんだろう・・・。
 そんな孝之君に私は今できる限りの気持ちをこめて、声にはならないけど唇を動かす。小さく、けれどはっきりと。涙でかすんでるけど、優しく見つめてくれているその瞳を見ながら・・・。
「ア・イ・シ・テ・イ・マ・ス」



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