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Don't let me down
「・・・これで本日の講義を終了します。何か質問は?」
「・・・・」
これといった質問は上がらない。
真夏の市民講座だけあって、あまり人は入っていない。
「・・・終了します。」
さっと黒板を消し、教室をあとにする。
閑散とした人影のない長い廊下を抜け、5号館からでる。
教職員用の駐車場に向かうためにアスファルトの道からそれて近道の芝生の中庭をぬける。

雲ひとつ無い空――
高い、青い空

遠くには飛行船が飛んでいるのが見えた。
青々とした草を踏みしめ、急いで駐車場に向かう。

娘の――遙の見舞いに行くために――

とちゅう運動部の生徒に手をふられたが、軽く会釈を
かわすだけで車に乗り込んだ。

3年前のあの事故以来―― 私たち家族の生活は変わった。
家内も倒れた。茜も無理をしている――茜は容姿はわたし似だが性格は家内の方に似ているのかもしれない。無理をするなと言っても聞かないのだ・・・

いや――私もそうだ・・・無理をしている・・・
ここ3年間まったく論文を発表していない・・・
大学内での立場は悪くなっていないといえば嘘になる・・・

――よそう。自分のことを考えるのは
鳴海君は――自分をかえりみないで娘を――遙を思ってくれていたではないか――

鳴海君は私が、遙が目覚めたことを伝えて以来、毎日見舞いに来てくれているようだった。
彼は、あの日――止まってしまった――そう、決して終わってしまったわけではない――遙との恋をまた動かそうとしている――。そうしなければ遙だけでなく彼自信も前に進めないと思っているんだろう・・・
鳴海君は――遙との恋を終わらせる気なのだろうか?――それとも、終わらせないためにまた始める気なのだろうか?
彼は――この恋をどうする気なのだろう――
娘の――遙の恋を終わらせる気なのだろうか――遙を捨てるのだろうか――

カーラジオから音楽が流れてくる――

Don't let me down――Don't let me down――くよくよするな――

ビートルズの特集のようだ。

そうだ―くよくよしてはダメだ――
遙と鳴海君の恋の行方を見守らなければ・・・たとえそれが遙の傷つく選択であったとしても・・・
それが・・・遙に、鳴海君に遙と別れてもらうように頼み、それを遙に告げることができずにいる私の義務なのだ。


等間隔で並んだ青々しい街路樹をくぐり向けて
私は病院へ急ぐためアクセルを強く踏んだ――


ギャラリ〜へ