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茜の気持ち
 
夏のある日…病室から出て、静かにドアを閉めて、横の壁にすがりながら天井をボーと眺める。

病室の中は、こことはまったくの別世界になっている。

「あら、妹さんじゃない。もう帰るの?」

「え!」

いきなり声を掛けられて、驚きの表情で声がした方を見る。

「どうしたの? ボーとして」

「いえ…別に何も…」

「そう、なら良いけど」

「もう帰ります…」

そう言って歩き出す。

「あ、そっちは出口は…。ふぅ〜…いろいろとあるのね」

香月先生はヤレヤレといった表情で、頭を掻きながら病室に入る。


気が付くと、屋上に出るドアの前に立っていた。どうして、ここに来たかは、自分でも判らない。

そっと、ドアノブに手を掛けて開ける。外から、海風が流れ込んできて、思わず目を瞑る。

ゆっくりと目を開ける。すると、屋上に誰か居るのが目に入る。それは、水月先輩だった。

音を立てないように、そっとドアを閉めるが音が鳴る。水月先輩は音に気が付いて振り返る。

その目には涙が溜まっていた。水月先輩は、私に気が付くとそっと涙を手でぬぐい

「茜、どうしたの?」

いつもの笑顔で言う。さっきの涙はいったい、何だったんだろう。

「茜? 聞いてるの?」「え!はい…」

気が付くと、水月先輩が私の顔を覗き込んでいた。

「水月先輩は、ここで何をしてたんですか?」

「私! 私は、海を見てたの」

「海…ですか?」

「ここから見える海って、凄く綺麗よね〜」

水月先輩はそう言って、海の見えるフェンスの所に歩いて行く。私もそこに行って海を見下ろす。

気持ちのいい海風が、私達の髪を弄ぶ。しばらく海を見ていると水月先輩が

「孝之は…まだ病室?」

「多分…居ると思いますよ」

「そう…」

水月先輩は、一瞬暗い顔をしたような気がする。たぶん、気のせいだろうと納得する。

「私は、孝之の所に行って帰るわね」

水月先輩はそう言って、中へと入って行く。

フェンスを右手でそっと掴み、左手で自分の胸の辺りの服を掴む。

抑えきれない思い…ずっと自分に偽ってきた、この気持ちが次第に大きくなってゆくのがよく判る。

この気持ちは、絶対に出してはいけない気持ち…だって、この気持ちをだしてしまったら…。


夏も終わり、木々の葉も残りわずかになったころ、私は電車に揺られながら、外の景色を眺める。

何時もと変わらない景色…何時もと変わらない日常。

ただ違うのは…鳴海さんが、お姉ちゃんの所に来なくなったことをのぞけば…。

ーENDー


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