12月の天使達〜茜編〜
何も見えねえ・・・何も聞こえねえ・・・
もう・・・ゴール(ゴミ箱)しか見えねえ・・・

「とりゃ!!」

シュッ〜〜〜〜〜、スパッ

孝之の手から放たれたゴミが美しい弧を描きゴミ箱に入る。

「いい音だ・・・」
孝之は安堵の表情を浮かべる。
「これでコタツから出なくて済むぜ・・・」
冬はコタツでヌクヌクするに限る。これをやりたいがために先週の月曜日、朝早くから
先着5名限りのコタツをGETするべく電気屋に並んだかいがあったというものだ。
・・・後ろには誰も並ばなかったけどな。あぁ笑うがいいさ。
今日は一日中こたつとイチャイチャして過ごす。何人たりとも俺の邪魔はさせん。
こたつ台に抱擁しながらニヤリと孝之は笑う。
「こたつはいいねぇ・・・人類の生んだ・・・」

ぴんぽ〜ん、ピンポーン・・・
どんどんどん・・・どんどんどんどん

インターホンとドアを激しくたたく音が交互にする。
「くそう・・・今日、俺、こたつ星人なのに・・・」
孝之はしぶしぶ玄関に向かう。
「鳴海さん・・・」
そこには茜が立っていた。手には愛媛みかんと書かれたダンボールを抱えている。
「なんだ茜ちゃんか・・・どうしたんだ?突然」
いつもは携帯に連絡を入れてからくるのに・・・孝之は不思議に思いつつも
「まぁいいや、あがっていっしょにこたつでヌクヌクするか・・・」
そういって孝之は茜を玄関に誘う。
「あの鳴海さん・・・あの・・・お願いがあるんですけど」
「・・・何?」
孝之は少しいやな予感がした。
「お願い!!この子飼ってあげて!!」
「えっ?この子って?」
ダンボールを覗き込んでみるとそこには白い毛色の子猫がいた。
「自分で飼えばいいじゃんか?家だって大きいし・・・」
「うちじゃ飼えないんだもん・・・お姉ちゃん動物アレルギーだし」
なるほど・・・だからあの家には動物がいないのかと孝之は思った。
「お願い・・・」
茜は目をうるうるさせている。
「ダメ」
孝之は手を十字に交差させて言う。
「え〜〜」
茜は非難の目を孝之に向ける。
「わりい。うちペット禁止なんだよ・・・それにそれ飼い猫じゃないのか?」
「・・・違うよ・・・ダンボールに入れられて公園に捨ててあったんだもん」
「そうか」
ダンボールに入った飼い猫なんていない。我ながら馬鹿な質問だと孝之は思った。
「ねぇ絶対ダメ?一生のお願い!!クリスマスのプレゼントはいらないからさぁ・・・」
茜は目をうるませながらねだる様に言う。
「ダメだ。元に戻してきなさい」
きっぱりと孝之は言う。
「ふん、もういいよ。鳴海さんのバカァ!!」
茜は、そう強い語気で言うとバタンと玄関のドアを閉めて走っていった。
勢いよく閉められたドアを見つめながら、孝之は
「ちぇっ・・・」
軽く舌打ちをした。


少しくすんだ空。
天気の悪いせいか広場はがらんとしている。
茜のほかに人影は見えない。
「ごめんね・・・」
茜は目にいっぱいの涙を溜めながら、つぶやいた。

ひゅぅぅぅぅぅぅ・・・

空っ風が吹いてきた。
茜は猫の背中を何度もさすった。
「・・・いい人に拾ってもらうんだよ」

―――――「そりゃ俺のことか?」

後ろから声が聞こえて茜は振り返った。
そこには孝之が立っていた。急いできたのか肩で息をしている。
「鳴海さん・・・」
茜は顔をくしゃくしゃにしながら孝之に抱きつく。
孝之は頬を人差し指でぽりぽりかきながら
「飼い主見つかるまでだかんな・・・大家に見つかったらアレだしな」
「うん!!」
孝之は小猫の入ったダンボールを傍らに抱えた。

いつのまにか辺りには雪が降り始めていた。

「あっ雪だ」
茜は嬉しそうに言う。
「やけに冷えると思ったら・・・」
孝之はつぶやいた。
「帰ろうか・・・」
そういって孝之はそっと手を茜に差し出す。
「はい!!」
そういって茜はぎゅっと孝之の手を握り返した。
「速く帰ってこたつでヌクヌクしよう」
「ニャー」
ダンボールから猫がぬっと顔を出し、鳴いた。
「ははは・・・お前もそうしたいか」
孝之は笑いながら、猫のほうを見た。
「あはは」
茜も嬉しそうに笑った。
「・・・名前つけてやんなきゃな」
「猫の・・・ですか?」
「そう・・・」

帰り道、しんしんと雪が降り続けていた。
茜の瞳にたまった涙を―――――優しい雪がそっと消していた。

あとがき
12月の天使達というモチーフではじめたSSです。とにかくキャラを可愛く描こうと
(特に茜さん)気をつけました。茜萌えの方に読んでほしいです。
遙編はおこじょの儚き夢の部屋のほうにあります。遙萌えの方はそちらもどうぞ。
もしよろしかったらご意見、ご感想いただけたら幸いです。


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